蕎麦屋でしょ、と高を括ってはいけないと思う。
お蕎麦を食べたくてお店に入ったのに。そのお品書きを見ていると、その前にご馳走にあずかりたくなるのが千代田区飯田橋四丁目にある『蕎庵・卯のや』。JR飯田橋駅の喧噪を忘れさせてくれる路地裏に、ひっそりと隠れるように佇んでいます。
定番の品のほか、旬の食材を使ったおすすめの一品が小さな黒板に手描きで記されています。食指が動かないわけがありません。では本日の一例です。天たねは、かき、小柱とえびのかき揚げ、野菜、穴子。お造りは、まぐろ、たい、かんぱち。一品料理としては、煎りぎんなん、里芋のゆずみそかけ、大根とかきのふろふき、秋の味覚のホイル焼、地鶏ときのこのレモン煮・・・
心惹かれる料理を、より一層引き立てているのが落ち着いた内装。蕎麦店でカウンターというのも珍しいが、これがこの店ならでは雰囲気を醸し出しています。
おすすめ席は、白いイスカバーのかけられたこのカウンター席。カウンターの正面は、ちんくぐりのように横長に壁をくり抜き開口されていて、厨房を垣間見ることができます。調理人のご主人の仕事ぶりが見えます。
寡黙で、ひたむきに無駄のない動きに感動。真剣な眼差しに職人という風情が漂ってきます。カウンター越しに伝わる調理人の誠実さに見入っていると、やがて料理が女将によって運ばれてきます。お酒は日本酒もいいのですが、焼酎を蕎麦湯で割るというのが素敵です。
と、料理ばかりに心が奪われますが、最後はやはり蕎麦。田舎蕎麦となりました。これまでいただいてきた美味しい料理さえ忘れさせてしまうほどの、実に上品な風味と香りに満たされます。
蕎麦に対する作り手のこだわりや自信からでしょうか、久しく忘れていた深い満足感が蘇ってきます。

帰り際、重たい木の引き戸を開けると、可愛い猫たちが集まってきました。風情あふれる、とっておきの一軒ではないでしょうか。
■DATA:09年11月25日
■千代田区飯田橋4-1-2『蕎庵・卯のや』
■TEXT&PHOTO:渡部(有限会社ベプロ)
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